かな料紙 - 小室かな料紙工房 -

伝統的製造方法で、書道用かな料紙を製作しています。このWebサイトでは、製作に係わる職人の立場から、かな料紙の作り方や種類など説明したいと思います。

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工房日記の記事一覧

版木の話

20130820

版木は山桜の木を使います。
山桜は、木目の柔らかい固いの差があまりなく、均一な
材質です。また固めで粘りがあるので版木にはとても
向いている木材です。

私が若い頃、版木専門に製作する職人さんがいました。
浮世絵版画はこの山桜の版木を使います。
固い木の表面を鉋(カンナ)で丁寧に削って仕上げます。
鏡の面のようにツルツルです!
写真は、その職人さんの仕上げた千社札用の版木です。
(172㎜×65㎜×24㎜)
使うことなく時々手で撫でて、感触を楽しんでいます。

六十代で亡くなられ、後継者がおられなかったので、
今は専門の職人さんは一人もいません。
現在版木は、江戸指物の職人さんに仕上げてもらって
いるそうです。

雲母摺り

20130808_1

胡粉で染めた紙に、木版で雲母を摺ります。
雲母はフノリと膠でといであり、刷毛でタンポに
付けているところです。
手前のバットに雲母の絵の具が入っています。
硯用の保温器が丁度良く、使い勝手上々です!

20130808_2

今度は、タンポで木版に丁寧にムラにならないように雲母の絵の具を
付けます。木版は、あらかじめ湿しておいてから使うようにします。

20130808_3

版木に紙を乗せるところです。

版画はふつう右見当で紙を版木に乗せます。右手の角に合わせて
ということです。
料紙の加工は、表右見当なので版画で紙を乗せるときは裏返しに
なるので、左見当になります。
どうでもよいような話ですが、見当はけっこう重要なものです。

あと一つ、紙はしっかり持たない!胡粉は手の油を吸いやすいので
作業の時に気を付けなければならないことです。
軽くひっかけるような感じ、でしょうか。

最後の摺っている写真は、プロフィールに使っているのが
続きです。
襖の唐紙は手のひらを使って摺っていますが、私は、バレンを
使います。

唐紙の下地 ぼかし

20130731_1

前回は基本の無地染めでしたが、今回はぼかし染めです。

写真は刷毛に絵の具を付けた状態で、左に色の付いた絵の具、
右に胡粉だけの白を付けます。
これを刷毛の動きで全体にぼかした状態にします。

20130731_2

ぼかした状態で絵の具の付いた刷毛で、そのまま染めます。
無地で染めるのに比べて、刷毛の動く方向が制限されるので
より丁寧に染める必要があります。

20130731_3

染め上がりです。
胡粉の柔らかい色の感じが、染めていて心地よい!
と感じます。

20130731_4

各色に染めた紙を、広げて乾燥しています。

ここで色の問題について少し書いておこうと思います。
無地、ぼかしにかかわらずお客様からのクレームで多いのが、
「前回と同じ色が無い!」
本当に申し訳ありません。
単色の絵の具を使うものでも、濃い薄いが多少でてしまいます。
紫や緑、少し渋めの色など混ぜて作る色は、作るときによって
色味が違います。
私の腕の問題!というのが一番だと思うのですが
見本を用意して色合わせをしてもなかなかピッタリ同じ色に
なりません。また、ある程度の時間の制約もあるので
近いところで妥協してしまうこともあります。

普段の仕事は、見本無しで色だしをしながら次々染めていくので
なおさら色味が変わってしまいます。

どうしても同じ色をそろえたい時は、同じ時期の製作の中から
選んで頂くのが良いかと思います。
言い訳たくさんになってしまいました。

次回、雲母摺りの工程について説明したいと思います。

唐紙の下地

20130727_1

胡粉を膠で良く練るところから、仕事の始まりです。
毛足の短い刷毛で濃いめの状態で膠と胡粉をよくなじませます。
さらに染める色に合わせて絵の具を加えます。

写真は、藍色の絵の具を入れて、程よく薄めて
染める状態にしたものです。
刷毛は、馬の毛でわりと毛がしっかりしたものを使います。

胡粉(ごふん)
イタボガキの貝殻を十年から十五年くらい天日でさらし
石臼で引いて粉にしたものです。
日本人形、日本画、などに使われ、そのままだと
温かみのある独特の白になります。

20130727_2

あらかじめドーサを引いてにじまないようにした雁皮紙に
刷毛で染めている写真です。
縦横に何度も刷毛を動かして、染むらの無いように
作業をします。

20130727_3

広げて乾燥しているところです。

全体を通して、
膠の加減に気を付ける事が大切です。強すぎても
弱くても、後々問題が出てきます。
数字で表せないので、作業をしてみて感じて覚える
しかありません。

乾燥が仕上がりに影響するので、天気の良い
よく乾く環境が理想です。
梅雨時の高温で湿度の高い状態は、いちばんむずかしい
季節です。

次回も又、下地作りの続きをアップしようと思います。

唐紙

20130720_1

20130720_2

平安時代に唐の国から輸入されたので、「唐紙」と呼ばれています。

一般に唐紙というと、襖に張る建築用の紙を指して言いますが
書道用の唐紙も製法は同じです。

あらかじめドーサを引いてにじまないようにした紙に、胡粉を
引いて下地を作ります。
そこに木版を使って雲母で模様を摺ります。

粘葉本和漢朗詠集、寸松庵色紙、本阿弥切、元永本古今集など
様々な古筆に使われている料紙です。

始めは輸入したものを使っていたようですが、平安時代末には
和製の唐紙が使われるようになっているのだそうです。

写真上は菊唐草、写真下は苺唐草と呼ばれています。
文様に関しては、同じ文様でも様々な名前があるので
何が正しい呼び方なのかは、わかりません。

次回は、唐紙の下地作りの話をしようと思います。

ドーサ引き

20130712

紙がにじまないように、ドーサ引きをします。
漉いた状態の和紙は墨や水をよく吸い込んでにじみます。
かな料紙は基本にじまない紙なので、必ず
ドーサを引くことになります。
また、ドーサを引いてにじみを止めないと出来ない加工が
あります。

膠(写真上)
三千本膠と言われているものです。牛の皮を原料にして
ゼラチン質を煮て取り出して乾燥させます。
ドーサに限らず、かな料紙の加工では重要な材料です。

ミョウバン(写真下)
正しくは、硫酸アルミニウムカリウムという化合物です。
ナスの漬物の色を悪くしないために使ったりします。

大まかに膠10gとミョウバン5g、これをお湯
800ccから1000ccくらいにといで使います。
膠とミョウバンの割合は、日本画の作家さん、表具屋さん
のように使う方によって違うので
それぞれの工夫があるのだと思います。
ミョウバンをもっと多く使う方もいます。また照りが
出やすいので、ほんの少しだけ、という方もいます。

ドーサは、季節や気温など環境で効き方が変わるので
その都度水の量を変えて、調整が必要になります。

こうして作ったドーサ液を紙に引いてにじみを止めるのです。

膠文化研究会

20130701

第三回膠(にかわ)文化研究会に参加しました。
会場は、東京芸術大学美術学部中央第一講義室。
写真は門を通ってから会場の建物へ向かう間です。

数年前、和膠を製造する最後の生産者さんが廃業しました。
仕事の上で膠はとても重要な材料であるにも関わらず、
生産の現場が厳しい状況であったことは知りませんでした。

研究会は、作家、文化財修復技術者、研究者、教育者、
などの方々による集まりで、とても内容の濃いものでした。

興味のある方は、膠文化研究会のウェブサイトが
ありますので、アクセスしてみてください。

膠の話は、後々投稿していきたいと思っています。

工房周辺

20130624

工房は、常陸太田市の山間部にあります。
まわりは今の季節緑でいっぱいです。

少しだけ田んぼを作っています。
屋内が多い仕事なので、たまの農作業はとても良い
気分転換。

六月は稲もグッと伸びますが、雑草も負けずに成長
するので、田んぼの中の草取りと畔草刈の作業を
します。

夕方、農作業の後のビールは格別です!

師匠の仕事

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全体
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拡大

木版画による源氏物語絵巻詞書の複製
(第三十七帖 横笛 第一紙)

私に木版の仕事を教えて下さった米田稔師匠の仕事です。
下地のぼかしや截箔も木版画で表現しています。

書の部分も木版です。墨の濃淡やかすれたところなど
丁寧に作られています。

何作品か残っているのですが、大切な資料です。
前回の貫之集の料紙は、師匠の指導を受けながら
製作したので思い出が沢山あります。

西本願寺本三十六人家集 貫之集上の料紙

20130610

貫之集の上

西本願寺本の三十六人家集の中から貫之集の上に使われている料紙の複製です。

墨流しを水の流れに見立てて、水辺の草が描かれています。実際に墨流しを原本の通りに流すことは不可能なので、木版で再現しています。水辺の草や鳥、茶色のぼかしもすべて木版です。

始めに和紙を草木染で薄く茶色に染め、表面に細かい截箔を撒き下地を作ります。それから木版で墨流しから茶色のぼかしと順番に摺っていきます。
最後に銀泥で草や鳥を摺って仕上がりになります。

原本の墨流しはもっと濃くなっているのですが、実際に書くためには少し濃すぎるので薄くして有ります。複製を作るとき、このあたりの感覚が難しいです。書の線を最大限活かす為にはどのくらいの装飾にするべきなのか?
今だに、よくわかりません。

梅雨入り宣言が出てから、晴れの日が続いています。これは、料紙の加工にとてもありがたい事です。梅雨は湿度が高く紙が乾きにくいので、仕事がやりにくいのです。でも、今適度に雨が降らないと後々困りますよね。

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